出向を検討する際は、出向の意味や左遷との違い、目的などについて理解が必要です。どのような場合でも出向させられるわけではなく、条件を満たしていなければ職権濫用や法令違反となる恐れがあります。 そこで本記事では、出向の意味や左遷との違い、目的、メリット・デメリット、注意点などについて詳しく解説します。
1.出向とは
出向とは、社員が自社からグループ会社や関連会社、あるいは全く関係がない会社などで働くことです。一般的に出向と言えば、元の企業での雇用契約を解消せずに別会社で働く「在籍出向」を指します。この場合、2つの企業で雇用契約を結んでおり、一定期間が経過した後に出向を終了することも可能です。
出向と混同されやすい左遷や人材派遣との違いについて、詳しく見ていきましょう。
(1)左遷との違い
左遷とは、現在よりも低い職位に異動させることです。業績不振によって人件費を削減するために役職付きから一般社員に降格させるように、ネガティブな理由で行われます。一方、出向は本人の成長や出向先の戦力強化のようにポジティブな理由で行うものです。
(2)人材派遣との違い
人材派遣と似ているのは、出向の中でも在籍出向です。人材派遣において、派遣社員が労働契約を締結しているのは人材派遣会社です。派遣先企業の指揮命令を受けて業務を遂行します。一方、在籍出向は現在在籍している出向元企業と、これから働く出向先企業の2社において労働契約を締結し、出向先の指揮命令の元で働きます。
また、人材派遣は1日から契約が可能であるのに対し、出向は数年に及ぶケースが多いでしょう。
2.出向の種類
出向と言えば、在籍出向をイメージする方が多いかもしれませんが、移籍出向も選択肢となります。それぞれの特徴を理解し、自社にとって最適と考えられる方法を検討しましょう。
(1)在籍出向
在籍出向とは、今在籍している企業との雇用関係はそのままで、別会社と労働契約を締結することです。あらかじめ定められた期間が終了すると、出向元へと戻ります。出向先企業の一時的な戦力強化や本人のキャリアアップに役立つ経験を積ませることなどを目的としています。
(2)移籍出向
移籍出向(別称:転籍出向)は、出向元企業との雇用契約を解消し、出向先と新たに雇用契約を締結する手法です。出向先の就業規則に従って労働し、出向元には戻りません。
3.出向の目的
出向は、ネガティブなイメージを持たれる場合がありますが、実際は次のようにポジティブな目的によって行います。
(1)キャリアアップに役立つ経験を積ませる
社員のキャリアアップに役立つ知識や技術、経験などを積ませることを目的に出向を提案する場合があります。新たな環境での経験は視野を広げるだけではなく、コミュニケーション能力やマネジメントスキルの向上にもつながります。
(2)出向先企業の戦力強化
出向先企業の戦力を強化することも出向の目的です。実績のある経験豊富な社員を出向させ、経営や技術の指導を行うことで、出向先企業の業績向上を促します。例えば、子会社の業績が悪い場合は親会社から優秀な社員を出向させることで、グループ全体の利益の底上げが可能です。 また、関連会社の業績が上がれば、結果的に出向元企業の業績も上がるケースがあります。
(3)企業間の交流
出向元企業と出向先企業のコミュニケーションが円滑化し、企業間の意思疎通がスムーズになることが期待できます。企業間のつながりや信頼関係が強くなり、長期的な協力関係に良い影響を与えます。
(4)人件費の削減
社員の雇用を続けることが難しいときに、給与支払いコストを削減する方法として転籍出向を行うことがあります。退職勧奨は条件を満たさなければ違法になるため、簡単に行えるものではありません。転籍出向であれば、社員に退職を促すこともなく、社員としても給与の支払いがなくならないため受け入れられやすいでしょう。
4.出向のメリット・デメリット
出向させることにはメリット・デメリットがあるため、総合的に見て行うべきかどうか検討する必要があります。企業側における出向のメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
(1)メリット
出向のメリットは、本人のキャリアアップにつながる知識や技術、経験などを習得できることです。結果的に自社の将来の安定性や業績が向上することが期待できます。また、取引先との関係が円滑になることで、双方の業績アップにつながります。
(2)デメリット
優秀な社員を出向させることで、出向元企業内で人材不足が生じる可能性があります。特に長期間の出向の場合、事業運営に支障をきたす可能性があることに注意が必要です。また、情報漏えいのリスクがあるため、事前に十分な注意喚起とルールの策定が求められます。
5.出向の注意点
出向を行う際は、法令を守るためにいくつか注意点を押さえておく必要があります。出向の注意点は次のとおりです。
(1)移籍出向は本人の許可が必要
移籍出向は、出向者の同意のもとで行う必要があります。これは、雇用契約を解消してから、別の会社で雇用されるためです。移籍出向を指示する場合は、本人と話し合い、大きな不利益を与えないように注意しましょう。
移籍出向を強要することは職権濫用に該当するうえに、他の社員との信頼関係にも悪影響が及びます。
(2)在籍出向は強制が可能だが退職につながる恐れがある
在籍出向は、強制的に出向させることが可能です。ただし、出向に関する規則が就業規則および雇用契約書に明記されており、社員がその内容に合意した場合は出向命令に従う義務が課せられます。
ただし、以下の条件を満たす場合、社員は在籍出向を拒否できます。
・他に適任者がいて、なおかつ自身に出向が困難な事情がある場合
・内部告発を行った人物のように、企業にとって都合が悪い人物に不当な出向命令をする
・出向の理由を明確に説明できない
このような場合に社員を無理に出向させると、訴訟を起こされる恐れがあります。
(3)出向契約の締結が必要
出向契約は、出向元企業と出向先企業との間で締結される契約です。口約束で出向させるのではなく、出向先で予想していた待遇ではなかったとのトラブルを防ぐために、出向者の労働条件や給与額、福利厚生、指揮命令系統などを明確に規定します。 社員にとって出向は大きな変化を伴うため、これらの条件を事前に明確にし、出向者と繰り返し面談で伝えて理解を求めることが大切です。
(4)職権濫用にならないようにする
出向命令は、雇用契約書の中で出向指示に従う旨に同意していた場合でも、権利の濫用にならないように注意しましょう。出向命令は正当な理由があることに加え、必要と考えられる場合にのみ行われるものであり、権利濫用となれば出向は指示できません。
出向先で特定のスキルや経験を習得させる必要がある、取引先企業との信頼関係を構築したいといった理由であれば、正当なものと判断されるでしょう。
(5)出向に対する手当は支払えない
出向する社員に、出向そのものに対して対価は支払えません。例えば、「月額2万円を支払うから出向してほしい」といった行為は偽装出向とみなされ、職業安定法違反になる恐れがあります。
出向の際は、出向先での勤務に対して給与を支払う必要がありますが、出向自体に報酬が発生することは避けるべきことです。
おわりに
出向は、社員に知識やスキル、経験を身につけさせることで将来的な業績アップにつなげる手法です。また、関係会社との信頼関係の構築や、業績アップによって結果的に自社が利益を得ることなども目的です。今回、解説した内容を参考に、出向を指示すべきかどうか十分に検討しましょう。
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