人事担当者の間で混乱を招きやすいのが、従業員が50人以下の場合の社会保険加入に関する適用条件です。
従業員数が少ない企業でも、一定の条件を満たせば社会保険への加入が義務付けられています。
この記事では、そんな社会保険の適用条件にスポットを当て、中小企業が直面する疑問を解消します。
従業員50人以下の企業が押さえるべき社会保険のルールをわかりやすく紹介しますので参考にしてください。
1.社会保険の基礎知識
社会保険の定義は広義と狭義で異なります。また、労働保険との区別も必要です。
社会保険 (広義) | 社会保険 (狭義) | 健康保険 |
厚生年金保険 | ||
介護保険 | ||
労働保険 | 雇用保険 | |
労災保険 |
一般的に社会保険は「健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険」の5つを指します。
求人票などで「社会保険完備」と記載がある場合はこれらが揃っていることを意味します。
5つそれぞれについて以下で詳しく解説します。
(1)健康保険
健康保険は、病気や怪我で医療機関を利用した際の経済的負担を軽減するための制度です。
保険料は企業と従業員がそれぞれ「5:5」の割合で負担します¹。
(2)厚生年金保険
厚生年金保険は、老後の生活保障を目的とした制度です。
退職後の収入を補償するほか、障害を負った時や死亡した時に給付金が支払われます。
保険料は企業と従業員が5:5の割合で負担します。
(3)介護保険
介護保険は、介護や支援が必要と認められた人の生活をサポートする制度です。
40歳以上の従業員は、健康保険料に加えて介護保険料を納めなければなりません。
負担割合は企業と従業員がそれぞれ5:5です。
(4)雇用保険
雇用保険は、失業中の生活を支援する制度です。
従業員を雇用するすべての企業や個人事業主が対象です。
負担割合は業種によって異なります。
例えば一般事業の場合は企業の負担割合が9.5/1000、6/1000です。
建設事業の場合は企業が11/1000、従業員が7/1000です。
(5)労災保険
労災保険は、業務中または通勤中のケガや病気に際し、従業員や遺族に給付金が支払われる制度です。
健康保険と異なり、業務中や通勤中のケガ・病気のみが対象です。
保険料は企業が100%負担します。
2.社会保険のメリット
社会保険のメリットは多岐にわたりますが、特に重要な3つを挙げてみましょう。
(1)医療費の負担軽減
社会保険に加入していると、病気やケガの際に必要な医療サービスを受ける際の自己負担が抑えられます。
従業員だけでなく、家族(配偶者や親族)も加入できます。
(2)老後の安心を支えられる
長期にわたり社会保険料を支払うことで、将来的に受け取る年金額が決まり、退職後の生活の基盤を形成します。
また、介護が必要になった時に自己負担1割で介護サービスを利用できます。
(3)ライフイベントに対応する保障も充実
社会保険では、出産や育児などのライフイベントの保障も手厚く用意されています。
産休・育休中の保険料免除や出産一時金の給付などがあります。
3.従業員50人以下の企業と社会保険
企業や個人事業主が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しなければいけない条件を以下にまとめました。
- 法人の場合→全業種必ず加入
- 個人事業主(適用職種)
従業員が常時5人以上→必ず加入
従業員が常時4人以下→加入は任意
- 個人事業主(適用職種以外)→加入は任意
なお、適用業種に当てはまらないものとしては、農業・林業・水産業、サービス・自由業、宗教などが挙げられます。
4.社会保険に加入できる従業員は大きく2種類
社会保険に加入している事業所においては、「常時雇用されている従業員」の加入が義務付けられています。
また、パートやアルバイトなどの場合でも条件を満たせば社会保険への加入対象となります。
社会保険に加入できる従業員について詳しく説明します。
(1)常時雇用されている従業員とは
以下のいずれかの条件に当てはまる場合、社会保険で定義されている「常時雇用されている従業員」とみなされ、社会保険の加入対象となります。
- 期間に定めがなく雇用されている
- 過去1年以上継続雇用されているor雇用時から1年以上継続の雇用が見込まれる
正社員や代表取締役、役員などが当てはまります。
(2)契約社員やアルバイトやパートの場合
常時雇用ではないアルバイトやパートなどの場合は「正社員の週および月の所定労働時間の3/4以上働いている」ことが加入の条件となります。
例えば1日8時間週5日勤務の場合→週30時間以上かつ月の労働日数が3/4以上であれば加入対象です。
また、3/4以上の条件を満たしていなくても、以下の条件を全て満たす場合は社会保険加入義務があります。
- 学生ではない(通信制や夜間は除く)
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2ヶ月以上雇用見込み
- 月額賃金が88,000円以上(年収106万円以上)
- 従業員規模が101名以上(2024年10月以降は51名以上へ改正)
5.従業員50人以下の事業所の注意点
具体的な社会保険加入条件がわかったところで、従業員50人以下の事業所はどのような点に注意すべきか、わかりやすくまとめました。
(1)社会保険の対象者に変更はない
2024年10月以降の法改正も、企業全体の従業員が50人以下であれば社会保険の対象者は変わりません。
今まで通り、代表取締役・役員・正社員、1年以上の雇用が見込まれる契約社員、週30時間以上(所定労働時間40時間の場合)働いているアルバイトやパートのみに加入義務が生じます。
(2)複数の事業所や店舗があると対象になるケースも
社会保険の被保険者数は、事業主が同一であれば合算して判断されます。
例えば、A社の横浜本社に30名、関西支店に20名、東北支店に20名の場合、どの事業所も人数は50名以下ですが、合計すると70名です。
このA社関西支店に「1日5時間・週5日・時給1100円で働いている勤続年数1年のパートBさん(30代主婦)」がいたとします。
A社の正社員の週の所定労働時間は40時間、月の労働日数は20日です。
Bさんを先程ほどの条件に当てはめた場合
- 学生ではない(通信制や夜間は除く)→当てはまる
- 週の所定労働時間が20時間以上→25時間なので当てはまる
- 2ヶ月以上雇用見込み→既に1年働いており当てはまる
- 月額賃金が88,000円以上(年収106万円以上)→月額11万円なので当てはまる
- 従業員規模が101名以上(2024年10月以降は51名以上へ改正)
→全社で70名なので当てはまらない
となり、現時点では社会保険加入対象外です。
しかし、2024年10月以降、社会保険の従業員規模は「51名以上」に拡大されるため、全ての項目が当てはまることになり、加入義務が生じます。
新たに社会保険の加入となる従業員がいないか、労務担当は正確に把握するようにしましょう。
まとめ
社会保険は、従業員や家族の医療費や老後の生活を支える重要な制度です。
出産や育児などのライフイベントにも対応する保障があります。
社会保険に加入できる従業員は、常時雇用されている従業員と、一定の時間や賃金を超えるアルバイトやパートです。
事業主は、自社の従業員規模や業種に応じて、社会保険の加入義務があるかどうかを確認する必要があります。
2024年10月以降は、社会保険の従業員規模が51名以上に拡大されるため、注意してください。
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