働き方改革関連法が施行された2019年以降、日本企業は年次有給休暇の管理を厳格に行うことが求められるようになりました。
特に重要なのが「年次有給休暇管理簿」です。
本記事では、年次有給休暇管理簿の必要性から具体的な作成方法、保存期間や記入例を詳しく解説します。
企業の労務管理の透明性を高め、従業員の健康とワークライフバランスを向上させるためにも、管理簿の活用方法を理解しましょう。
1.年次有給休暇管理簿はなぜ必要?
2019年の働き方改革関連法施行によって登場した「年次有給休暇管理簿」。
この書類が必要となった背景について、法改正の内容とともに解説します。
(1)労働基準法の改正内容
2019年4月1日から施行された労働基準法の改正により、年次有給休暇の管理が厳格化されました。
この改正では、使用者(企業側)に対して、年次有給休暇の取得状況を正確に管理し、記録する義務が課されました。
具体的には、全ての従業員が年次有給休暇を少なくとも5日間取得するように企業側が管理しなければならないという規定が導入されました。
(2)管理簿で働き方改革を推進
この改正は、働き方改革の一環として行われました。
働き方改革は、長時間労働の是正やワークライフバランスを実現するための施策です。
有給休暇の取得促進は、この改革の重要な柱の一つ。
日本では長時間労働が深刻な問題となっており、従業員の健康や生活の質に悪影響を及ぼしています。
年次有給休暇の適切な取得を促進することで、従業員の過労を防ぎ、健康で生産的な働き方を推進する狙いがあります。
(3)有給休暇の取得率向上のため
改正前の日本において、有給休暇の取得率は低い状況が続いていました。多くの従業員が有給休暇を取りづらいと感じており、取得日数が少ないことが問題視されていました。労働基準法の改正により、企業は従業員に対して有給休暇の取得を推奨し、実際に取得させる義務を負うことになりました。このため、年次有給休暇管理簿が必要となり、従業員一人一人の休暇取得状況を明確に把握・管理することが求められるようになりました。
(4)管理の透明性と法令遵守に不可欠
労働基準法の改正に伴い、企業は年次有給休暇の管理を適切に行うことが法的に求められます。
管理簿によって従業員の休暇取得状況を正確に記録し、法令遵守の証拠として提示することが可能になりました。
企業の労務管理の透明性が向上し、労働基準監督署からの指導や監査に対する対応がスムーズに行えます。
(5)保存義務は3年間
労働基準法では、年次有給休暇管理簿の保存期間を3年と定めています。
管理簿は有給休暇を付与したかどうかを示す重要な書類です。
従業員とトラブルになった際も適切に対応できるよう、保存期間をきちんと守りましょう。
2.年次有給休暇管理簿の項目
年次有給休暇管理簿には、以下の項目が含まれます。
- 基本情報
- 年次有給休暇の付与日数
- 年次有給休暇の取得状況
- 年次有給休暇の残日数
- その他の関連情報
それぞれ、具体的な内容をまとめました。
基本情報
基本情報には、従業員の氏名、社員番号、入社日などが含まれます。
入社日は有給休暇の発生日数を計算する基礎となるため、特に重要な情報です。
また、職位や部署の情報も含めることで、組織全体の休暇取得状況を把握しやすくなります。
年次有給休暇の付与日数
法律や会社の規定に基づき、従業員に付与される年次有給休暇の最低日数は決められています。
通常、継続勤務年数が1年経過するごとに付与日数が増えていきます。
具体的には以下のとおりです。
継続勤務年数(年) | 付与日数(日) |
0.5(6ヶ月) | 10日 |
1.5 | 11 |
2.5 | 12 |
3.5 | 14 |
4.5 | 16 |
5.5 | 18 |
6.5以上 | 20 |
管理簿があれば、有給休暇付与日数がどのくらいあるのか明確にできます。
年次有給休暇の取得状況
取得状況には、従業員が実際に取得した有給休暇の日数や日付が記録されます。
従業員がどのくらいの休暇を取得しているか、どの期間に取得したか把握するのに必要です。
取得状況の記録は、従業員の労働時間管理や休暇計画に役立ち、過剰取得や未取得の防止にもつながります。
年次有給休暇の残日数
付与された日数から取得した日数を差し引いた残日数を管理します。
残日数の把握は、従業員が今後取得できる休暇の日数を確認するために重要です。従業員はこの情報を基に、休暇計画を立てることができます。
また、企業側も従業員の休暇バランスを管理しやすくなります。
その他の関連情報
その他の関連情報は、特別休暇や病気休暇などの取得状況、休暇申請の承認者、取得理由などです。
年次有給休暇と他の種類の休暇のバランスを管理できます。
休暇取得の背景を把握することは、従業員の福利厚生や労働環境の改善にも役立ちます。
3.年次有給休暇管理簿の例
管理簿には、本人請求、計画年休、会社指定の各項目が含まれ、労働者ごとに管理されます。
労働者名簿や賃金台帳とあわせて作成することも可能です。
詳細は、労働基準法施行規則第24条の7に記載されています。
厚生労働省が配布するテンプレート
厚生労働省では、Excel形式のテンプレートを配布しています。
年次有給休暇管理簿の記入例
こちらも厚生労働省が公表している、管理簿の記入例です。
前述したテンプレートをダウンロードし、記入例を見ながら作成するのがおすすめです。
4.年次有給休暇管理簿の作成方法
自社でオリジナルの管理簿を作成する場合、Excelもしくは勤怠管理システムを活用するとスムーズです。
それぞれの作り方をまとめました。
Excelで作成する場合
①準備と設計
Excelで年次有給休暇管理簿を作成するには、まず基本的なテンプレートを設計する必要があります。
基本情報として、従業員の氏名、社員番号、部署、入社日などの項目を含めたシートを作成。
次に、有給休暇の付与日数、取得日数、残日数を管理するための列を設置します。
②入力と更新
各従業員の基本情報を入力した後、年次有給休暇の付与日数を計算し、入力します。
休暇取得の際には、取得日と取得日数を記録。
この情報をもとに、残日数を計算し、最新の情報を維持します。
Excelの関数(SUM、IF、VLOOKUPなど)を活用して、日数の自動計算や条件付き書式でのハイライトを行い、管理を効率化しましょう。
③メンテナンスとバックアップ
定期的に管理簿を更新し、バックアップを取ることが重要です。
特に、Excelファイルは誤って上書きされたり、削除されたりするリスクがあるため、クラウドストレージや外部デバイスに定期的に保存します。
また、定期的な見直しを行い、従業員の情報や休暇取得状況に変更があれば適宜更新します。
勤怠管理システムで作成する場合
①システムの選定と導入
勤怠管理システムを利用して年次有給休暇管理簿を作成するには、まず適切なシステムを選定し、導入します。
多くの勤怠管理システムは有給休暇管理機能を備えており、従業員の基本情報や休暇情報を一元で管理可能です。
システム選定時には、使いやすさや機能、コストなどを考慮します。
②データ入力と設定
導入後、従業員の基本情報をシステムに登録し、各従業員の年次有給休暇の付与日数を設定します。
システムによっては、自動で付与日数を計算し、従業員ごとの休暇管理が可能です。
従業員が休暇を申請すると、管理者はシステム上で承認や却下を行い、その情報が自動的に管理簿に反映されます。
③リアルタイム管理とレポート機能
勤怠管理システムなら年次有給休暇の取得状況をリアルタイムで管理。
取得日数や残日数を自動的に計算し、管理者や従業員がいつでも最新の情報を確認できます。
また、多くのシステムはレポート機能を備えており、休暇取得状況のレポートを簡単に生成可能です。
労働基準法に基づいた適切な管理が容易になり、法令遵守も確実になります。
おわりに
年次有給休暇管理簿は、企業にとって労務管理の透明性を高め、従業員の働き方改革を推進するために欠かせないツールです。
本記事で紹介した内容を参考に、適切な管理簿の作成と運用を行うことで、法令遵守だけでなく、従業員の満足度向上にもつながります。
今後も、働きやすい環境づくりのために、年次有給休暇の管理を徹底し、より健全な労働環境を目指していきましょう。
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