有給休暇の取得率が思うように上がらず、頭を悩ませている労務担当者の方は少なくないでしょう。
企業には年5日の有給休暇取得が義務付けられていますが、現場の雰囲気や人手不足を理由に取得が進まないケースも見受けられます。
本記事では、有給休暇の取得率が伸び悩む原因と、企業が取り組める具体的な工夫について解説します。
1. なぜ有給休暇の取得率向上が求められるのか
有給休暇の実際の取得状況は企業によって大きな差が見られます。
2019年4月に施行された働き方改革関連法により、企業には一定の対応が義務付けられました。
取得率の向上は単なる法令遵守にとどまらず、企業経営そのものに関わる重要なテーマといえるでしょう。
ここでは、有給休暇の取得率向上が求められる背景について2つにまとめました。
(1) 働き方改革関連法における年5日取得義務
働き方改革関連法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、企業側が年5日を確実に取得させることが義務付けられました。
制度が導入された背景には、日本の有給休暇取得率が「国際的に見て低水準」という事情があります。
厚生労働省の調査でも、取得率が5割前後にとどまる時期が長く続いていました。
万が一、対象となる労働者が年5日の取得が果たされていない場合、企業は労働基準監督署からの是正勧告や罰則の対象となる可能性があります。
したがって、労務担当者は年間を通じて取得状況を把握し、計画的に取得を促す体制を整えることが欠かせません。
(2) 取得率が低いことによる企業リスク
有給休暇の取得率が低い状態が続くと、企業にはさまざまなリスクが生じます。
まず挙げられるのは、前述の法令違反による行政指導や罰則のリスクです。
加えて、従業員の心身の疲労蓄積や離職率の上昇にもつながりかねません。
近年は求職者が企業選びの際に有給取得率を重視する傾向も強まっています。
採用活動における不利益も無視できない要素です。
こうした事情から、取得率の向上は法令遵守の枠を超え、人材の定着や採用力の強化といった経営課題として捉える必要があるでしょう。
2. 有給休暇の取得率が伸び悩む主な原因
取得率を上げるためには、自社でなぜ取得が進まないのか把握することが出発点となります。
原因は職場の雰囲気といった心理的な要因から、管理体制の不備といった制度的な要因まで多岐にわたります。
原因を正しく特定できなければ、どれだけ制度を整えても効果は上がりにくいもの。
有給休暇の取得率が伸び悩む主な原因について3つ紹介します。
(1) 職場の雰囲気や周囲への気兼ね
「休むと周囲に迷惑がかかる」という意識は、有給休暇の取得を妨げる代表的な要因のひとつです。
人員に余裕のない部署では、休暇取得自体が同僚の負担増につながりやすく、心理的なハードルが高くなりがちです。
また、上司自身があまり休暇を取らない職場では、部下もその姿勢に合わせてしまう傾向が見られます。
このような場合、制度を整えるだけでは取得率は改善しにくいでしょう。
経営層や管理職が率先して休暇を取得する姿勢を示すことが、職場全体の意識を変える第一歩です。
(2) 慢性的な人手不足による取得のしにくさ
人手不足が常態化している職場では、そもそも休暇を取る余地自体が限られています。
特に小売業やサービス業では、繁忙期とシフトの兼ね合いから、希望する日に休みを取りづらい状況が生じやすいもの。
一人の担当者に業務が集中している、いわゆる業務の属人化も、休暇取得を難しくする一因となります。
この状態を放置すると、休暇を取れないことへの不満が蓄積し、離職につながる恐れも。
人員配置の見直しや業務の標準化によって、誰か一人が休んでも業務が回る体制を整えることが求められるでしょう。
(3) 取得状況を正確に把握できていない管理体制
取得状況を管理者が正確に把握できていないことも、取得率が伸び悩む大きな原因です。
紙の台帳やExcelでの個別管理では、従業員ごとの残日数や取得義務の進捗をリアルタイムで確認することが難しくなります。
結果、年度末に初めて未取得日数の多さに気づくといったケースも少なくありません。
管理者が状況を把握できていなければ、計画的な取得勧奨を行うタイミングも逃します。
取得状況を常に可視化できる仕組みを整えることが、こうした管理上の課題を解消する鍵となるでしょう。
3. 有給休暇の取得率を上げる5つの工夫
ここまで見てきた原因を踏まえ、実際に取得率を高めるためにはどのような工夫が考えられるでしょうか。
制度面の整備から日々の運用の工夫まで、企業が取り組める対策はいくつも存在します。
有給休暇の取得率を上げるための具体的な工夫について5つにまとめました。
(1) 年次有給休暇取得計画表の導入
年次有給休暇取得計画表とは、あらかじめ従業員ごとの取得予定日を決めておく仕組みです。
計画的付与制度を活用すれば、労使協定に基づき、企業側が計画的に休暇取得日を割り振ることも可能になります。
年度初めや期初のタイミングで計画を立てておくことで、繁忙期を避けつつ着実に取得を進めやすくなります。
急な申請による現場の混乱も減らせるため、管理者・従業員双方にとって負担の少ない方法といえるでしょう。
対象者全員分の計画表を作成し、進捗を定期的に確認する体制を整えることが第一歩です。
(2) 残日数の「見える化」による意識づけ
従業員自身が自分の有給休暇の残日数を把握できていないケースは意外に多く見られます。
残日数や取得義務の達成状況を一覧で確認できるようにすることで、従業員の取得意識を自然に高めることができます。
給与明細や社内ポータルに残日数を明記する、定期的にリマインドを送るといった工夫も有効です。
可視化された情報があれば、従業員も計画的に休暇の予定を立てやすくなります。
情報を「見える化」することは、取得率向上に最も効果的な方法といえるでしょう。
(3) 管理者からの計画的な取得勧奨
制度を整えるだけでなく、管理者が個々の従業員に直接取得を促すことも重要です。
特に取得日数が少ない従業員に対しては、上司から個別に声をかけることで、休暇取得への心理的なハードルを下げられます。
面談や1on1の場を活用し、業務の繁閑を踏まえながら取得時期を一緒に検討するのもよい方法です。
管理者自身が積極的に休暇を取得する姿を見せることも、部下の行動を後押しする効果があります。
日常的な働きかけの積み重ねが、職場全体の取得率を底上げしていきます。
(4) 半日単位・時間単位取得制度の活用
まとまった1日単位での取得が難しい従業員にとって、半日単位や時間単位での取得制度は有効な選択肢となります。
通院や子どもの学校行事など、短時間だけ休みたいというニーズに柔軟に対応できる点が大きなメリットです。
制度を導入する際は、従業員への周知を丁寧に行うことが欠かせません。
柔軟な取得方法を用意することで、休暇を取りにくかった層の取得率向上も期待できます。
(5) 勤怠管理システムによる取得状況の一元管理
これまで紹介してきた工夫を効果的に運用するには、有給休暇の情報を一元的に管理できる仕組みが土台として欠かせません。
勤怠管理システムを活用すれば、従業員ごとの付与日数・取得日数・残日数を自動で集計し、リアルタイムで確認できるようになります。
年5日が未達成の従業員を自動で抽出し、管理者にアラートを通知する機能を備えたシステムがほとんどです。
手作業での集計や台帳管理にかかっていた時間を削減できるため、労務担当者は取得勧奨や運用改善といった本来注力すべき業務に時間を充てられるようになります。
このように、システムによる「見える化」と業務負担の軽減は、取得率向上の取り組みを継続させるうえで大きな支えとなるでしょう。
4. 勤怠管理システムを導入するメリット
勤怠管理システムは、日々の勤怠管理全体を効率化する基盤としても効果を発揮します。
手作業や紙の管理から脱却することで、業務負担の軽減と正確性の向上を同時に実現できるでしょう。
ここでは、勤怠管理システムを導入することで得られる主なメリットを紹介します。
(1) 有給休暇の取得状況をリアルタイムで可視化できる
従業員ごとの有給休暇の付与日数・取得日数・残日数を自動で集計し、リアルタイムで確認できるようになります。
紙の台帳やExcelでの管理では更新の手間がかかり、情報が古くなりがちですが、システム上であれば常に最新の状況を把握できます。
年5日の取得義務を満たしていない従業員を自動で抽出し、管理者に通知する機能を備えたシステムも少なくありません。
可視化の仕組みがあることで、取得漏れを防ぎ、計画的な取得勧奨につなげやすくなります。
労務担当者は日々の集計から解放され、本質的な管理業務に注力できるようになるでしょう。
(2) 打刻・集計業務の負担を軽減できる
システムを導入する大きな利点のひとつが、打刻から集計までの一連の業務を自動化できる点です。
出退勤の打刻データが自動で集計され、残業時間や休暇日数の計算もシステムが行うため、手計算によるミスや二重チェックの手間を減らせます。
複数店舗や拠点を展開している企業であれば、拠点ごとの勤怠状況を一元的に管理できる点も大きなメリット。
給与計算システムと連携させれば、集計結果を給与処理に反映させることも可能です。
業務の自動化によって生まれた時間を、採用や教育といった他の労務課題に振り向けられる点も見逃せません。
(3) 法令遵守・労務コンプライアンスを強化できる
働き方改革関連法や労働基準法への対応は、企業規模を問わず避けて通れない課題です。
勤怠管理システムを導入すれば、法定労働時間や休憩時間、年5日の有給休暇取得義務といった法令上の基準を自動的にチェックできます。
基準に抵触しそうな従業員がいる場合にアラートを表示するシステムもあり、労務担当者が問題を早期に発見しやすくなります。
手作業では見落としがちな細かな基準も、システムなら漏れなく確認できる点が強みです。
コンプライアンス体制を強化することは、労働基準監督署からの是正勧告といったリスクを未然に防ぐことにもつながります。
5. 勤怠管理システム導入時の注意点
勤怠管理システムには多くのメリットがある一方、導入にあたっては事前に確認しておくべきポイントもあります。
自社の状況を踏まえずに導入を進めてしまうと、かえって現場の負担が増えてしまう可能性もあるでしょう。
勤怠管理システムを導入する際の主な注意点を3つにまとめました。
(1) 自社の勤務形態・拠点数に合った機能選定
搭載されている機能やカバーできる勤務形態はシステムによって大きく異なります。
シフト制勤務が中心の職場であれば、シフト管理機能との連携がスムーズかどうかを確認しておく必要があるでしょう。
多店舗展開をしている企業の場合は、拠点ごとの勤怠データを本部で一元管理できるかどうかも重要な確認ポイントです。
自社の業種や働き方に合わない機能ばかりが充実したシステムを選んでしまうと、宝の持ち腐れになりかねません。
導入前に自社の勤務実態を整理したうえで、必要な機能を明確にしてから比較検討することが失敗を防ぐ近道です。
(2) 既存の給与計算システムとの連携確認
勤怠管理システムを導入する際は、既存の給与計算システムとの連携可否を必ず確認しておきましょう。
連携がスムーズであれば、勤怠データが給与計算にそのまま反映され、二重入力の手間や転記ミスを防ぐことができます。
一方で、連携に対応していないシステムを選んでしまうと、結局は手作業でのデータ移行が発生し、業務効率化という本来の目的を果たせなくなってしまいます。
導入を検討する段階で、自社が利用する給与計算システムとのAPI連携やCSV出力の可否を確認しておくとよいでしょう。
連携範囲を事前に把握しておくことで、導入後のギャップを防ぎ、スムーズな運用開始につなげられます。
(3) 従業員への周知と運用定着までのフォロー
どれほど優れたシステムでも、従業員に使い方が浸透しなければ効果を発揮できません。
特に、これまで紙やタイムカードで打刻していた職場では、操作方法に不慣れな従業員も一定数いることが想定されます。
マニュアルの配布や説明会を実施し、疑問点をその場で解消できる機会を設けることが定着への近道です。
導入直後は運用ルールに関する問い合わせが増える傾向があるため、担当窓口をあらかじめ明確にしておくと混乱を防ぎやすくなります。
段階的に運用を軌道に乗せていく姿勢を持つことで、システム導入の効果を最大限に引き出すことができます。
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