近年、日本の企業や組織が直面する労働力不足を解消するための一環として、技能実習制が大きな役割を果たしています。
しかし、制度の運用における問題点も浮き彫りになっており、それらを解決するための新しいアプローチが必要です。
この記事では、外国人技能実習制度の概要から歴史、そして現在の課題に至るまでの全体像を詳しく解説していきます。
また、現行制度を廃止し2024年の関連法施行を目指している「育成就労制度」の内容とその影響についてもまとめました。
1.外国人技能実習制度とは
(1)外国人技能実習制度の概要
外国人技能実習制度は、日本での実務経験を通じて、技能、技術、または知識を習得し、それを母国の経済発展に役立てることを目的としています。
この制度は主に途上国からの若者を対象にしており、日本の企業や組織が実習生を受け入れています。
対象となるのは、農業、漁業、建設、食品製造、繊維産業などの分野です。
(2)外国人技能実習制度の歴史
技能実習制度は1993年に始まりました。
当初は、技能の移転を通じて国際協力を行うことを目的としていましたが、日本国内での労働力不足が深刻化する中、建設や製造業界で外国人労働者の受け入れを拡大。
特に、東京オリンピック決定後の関連施設整備のための労働力不足が露呈した2015年以降、技能実習生数が急増しました。
近年では人権侵害や悪質ブローカーなどのトラブルが続出しており、実習生の権利保護や労働環境の改善が求められています。
(3)技能実習制度の区分・在留資格
在留資格として「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」の3つがあります。
第一段階「技能実習1号」は在留期間1年以内とされており、基本的な技能や技術の習得に焦点を当てています。
2号の対象職種でない場合は1年で帰国することになります。
第二段階「技能実習2号」は実質2〜3年目のことで、さらに上級の技術や知識を身につけるためのもの。
最長2年間の実習が可能です。
実技試験に合格することで、技術の熟練を目的とした「技能実習3号」に進むことも可能です。
これにより最長5年間の実習が可能になります。
2.外国人技能実習制度の受け入れ方式
技能実習生の受け入れ方式には、「企業単独型」「団体監視型」の2種類があります。
それぞれの特徴について、以下で説明します。
(1)企業単独型
企業単独型は、現地の法人が直接外国人技能実習生を受け入れる方法です。
日本の企業が海外の現地法人や取引先企業の職員を受け入れて国内で技能実習を実施します。
企業は自社の技術や業務に必要な技能実習生を直接採用します。
特に、海外支店がある場合や海外に取引先がある場合などが当てはまります。
(2)団体監視型
団体管理型は、専門の機関を通じて外国人技能実習生を受け入れる方法です。
監理団体が技能実習生の選定や指導を行い、企業と連携して受け入れを進めます。
この方式では、技能実習生の教育や生活サポートを監理団体が担当します。
なお監理団体は、事業協同組合や商工会等、営利を目的としない団体と定められています。
企業単独型は直接的であり、企業が自社のニーズに合った技能実習生を選定できます。一方、団体管理型は監理団体の専門知識を活用し、技能実習生の選定やサポートを効率的に行うことができます。
3.外国人技能実習制度の問題点
(1)賃金不払いやパワハラなどの人権侵害
技能実習生に対する賃金未払い、不当な長時間労働、パワハラなどの人権侵害がたびたびニュースで取り上げられています。
不当な扱いを受けても相談や交渉が難しく、支援体制が不十分なことや、制度上、他の企業へ転職・転籍できない点も、実習生の失踪や不法就労が増える原因となっています。
(2)目的の形骸化
本来の外国人技能実習制度の目的は、人材教育を通じて開発途上地域に技術や知識を移転し、国際協力を推進する事にありました。
しかし現在、企業の人手不足が深刻化し、技能実習制度を単なる労働力確保の手段としている企業も少なくありません。
(3)悪質なブローカーの存在
制度を悪用し、営利目的で送り出し機関や受入企業を仲介するブローカーも存在します。
渡航者に対して高額な仲介料を請求する、不正な契約を締結するなどの被害が相次いでいます。
4.技能実習制度廃止後の「育成就労制度」とは
「育成就労制度」は、技能実習制度廃止後の新しい制度です。
日本政府は2024年中の制度開始を目指しています。
これまでの技能実習制度は国際貢献や技術移転を目的としており、技能の移転を重視していました。
時代の変化を踏まえ、新制度では外国人労働者の確保と人材育成を目的とし、技能実習生を正面から労働者として受け入れ、育成する方針です。
(1)技能実習と特定技能の位置付けと関係性
旧制度では技能実習(技術の習得を目的としたもの)と特定技能(労働力確保を目的としたもの)が異なる位置にありました。
これまでは88の職種のうち、より熟練した特定技能へ移行できる分野は12しかありませんでしたが、新制度では全ての職種で特定技能へ移行できるとしています。
(2)受入れ対象分野や人材育成について
受入れ対象分野は、現在の特定技能制度の「特定産業分野」のまま。
ただし、今後の状況によっては分野を拡大することも検討しています。
また、人材育成・評価については日本語能力を重視しつつ、熟練すれば事実上永住も可能となる特定技能への移行を促す方針です。
(3)転籍・転職について
新制度では「同じ職場で1年から2年の一定期間働く」などの条件を満たすことで、同じ分野での転籍が可能に。
転籍先が適切であると認められる要件を満たす場合、本人の意向による転籍が認められます。
この新制度により、技能実習生のスキルアップが促進され、選択肢が広がることで、外国人労働者としての自由度が向上することが期待されています。
まとめ
外国人技能実習制度の概要から歴史、現在の運用方法、そして制度の課題点について解説しました。
技能実習制度の廃止後を見据えた「育成就労制度」の導入についても、労務担当者は把握しておく必要があります。
技能実習制度は日本の労働市場における重要な要素であり、国際協力と国内の人手不足解消の架け橋となっています。
しかし、人権侵害や悪質なブローカーの問題など、解決すべき課題も多く存在します。
今後の改善と適切な管理が求められる中で、育成就労制度の導入は新たなステージへの一歩です。
この制度がどのように進化し、外国人労働者と日本社会の双方に利益をもたらすかは、今後の展開を見守る上での重要なポイントです。
この記事が、技能実習制度の理解を深め、その未来に対する洞察を提供する一助となれば幸いです。
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