働き方改革が進む一方で、「自社の残業時間を正確に把握できていない」という声は今なお少なくありません。
特に人手不足の現場や、アナログな勤怠管理を続ける企業では、残業の実態が把握できずにトラブルを招くケースもあります。
残業時間を見過ごしてしまうことは、企業全体の信頼性や組織力を揺るがす重大なリスクにつながります。
この記事では、企業が取り組むべき対策とポイントをまとめました。
1.残業時間を把握しないことのリスク
残業時間を正確に把握しない状態は、大きなリスクをはらんでいます。
たとえ業務の効率が良く見えても、裏側で長時間労働が常態化していれば、健康被害や法令違反、訴訟といった深刻な問題に発展しかねません。
ここでは、残業時間の把握を怠ることで実際に起こり得る4つの代表的なリスクを紹介します。
・過重労働による健康被害・労災
・法令違反による行政指導・罰則
・残業代未払いによる訴訟リスク
・社員のモチベーション低下・離職
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1) 過重労働による健康被害・労災
残業時間の管理が不十分だと、知らず知らずのうちに過重労働に陥るおそれがあります。
長時間労働は心身の健康に悪影響を及ぼし、うつ病や過労死といった深刻な健康被害につながることも。
長時間労働が原因で労災認定された事例は年々増加傾向にあり、企業の社会的信用にも影響を与えかねません。
社員の健康を守るには、残業時間の適正な把握が欠かせません。
(2) 法令違反による行政指導・罰則
労働時間の把握を怠ると、労働基準法に抵触する可能性があります。
特に36協定で定めた上限を超えて残業をさせていた場合、重大な法令違反とみなされます。
厚生労働省による調査では、時間外労働の違反で是正勧告を受ける企業が毎年数多く報告されています。
法令遵守の観点でも、正確な勤怠管理が求められます。
(3) 残業代未払いによる訴訟リスク
勤怠記録が不明確だと、残業代の未払いが発生しやすくなります。
未払いが常態化すると、社員からの労働基準監督署への通報や、企業への損害賠償請求につながる可能性があります。
実際、数百万円単位の支払い命令を受けた企業もあり、経営に与える打撃は小さくありません。
企業リスクを回避するには、適切な時間管理が不可欠です。
【関連記事】勤怠管理はなぜ重要？最新の勤怠管理システムの機能や効率的な管理方法を紹介
(4) 社員のモチベーション低下・離職
残業時間の管理がずさんだと、「頑張ったのに評価されない」と社員が感じやすくなります。
結果として、やる気の低下や早期離職といった人材流出を引き起こしかねません。
特に、働き方改革の意識が高まっている昨今では、ワークライフバランスに敏感な社員が増えています。
公平かつ透明な勤怠管理を行うことが、職場の信頼と定着率向上につながります。
2. 残業時間が把握できていない企業の共通課題とは？
残業時間の把握ができていない企業には、共通の課題があります。
ここでは、残業時間の把握が難しくなる原因となる代表的な課題を紹介します。
・打刻ミス・申請漏れが多い
・勤怠データがバラバラで集計に時間がかかる
・所定外労働の管理が現場任せ
・集計作業が属人化している
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1) 打刻ミス・申請漏れが多い
残業時間の把握が不正確になる一因として、打刻ミスや申請漏れが挙げられます。
特に、紙のタイムカードや手入力のシステムを利用している場合、記録の抜けや修正忘れが起きやすくなります。
打刻を忘れてしまったために勤務時間が短く記録され、実際の労働時間との差異が発生したという事例は少なくありません。
ヒューマンエラーを防ぐには、打刻精度を高める仕組みが必要です。
(2) 勤怠データがバラバラで集計に時間がかかる
勤務データが複数のフォーマットや部門ごとに分かれていると、全体の集計に大きな手間がかかります。
統一されていないデータは確認や突き合わせが煩雑になり、ミスの温床にもなります。
たとえば、営業部と製造部で別の勤怠表を使っている場合、それぞれを照合・加工しなければ全体の状況を把握できません。
全社共通のデータ管理体制を整えることが、集計作業の効率化につながります。
(3) 所定外労働の管理が現場任せ
現場ごとの判断で残業が発生し、それを上長や人事が把握できていないケースも珍しくありません。
このような状況では、労働時間の全体像を正確に把握することが難しくなります。
店舗責任者の裁量で日々の残業が決定されていても、その内容が本部に報告されないと、組織としての労働管理は機能しません。
全社で一貫した労務ルールを運用することが必要です。
(4) 集計作業が属人化している
勤怠管理の集計業務が一部の担当者に依存していると、人的ミスのリスクや業務の停滞が発生します。
属人化によって、その人が不在の際に業務が止まったり、内容の確認ができなくなったりする危険性もあります。
担当者が異動後「どのタイミングでどのデータを集計していたかが不明」といったトラブルが起きるケースも存在します。
業務の標準化と共有が、安定した勤怠管理体制を築く鍵です。
3. 適切に残業時間を管理するための基本ステップ
残業時間を適切に管理するためには、単に勤怠を記録するだけでは不十分です。
企業として労務リスクを防ぎ、従業員の健康や生産性を守るには、管理体制そのものを見直す必要があります。
残業時間の正確な把握と健全な労働環境づくりに向けて、最低限押さえておきたい基本ステップを紹介します。
・労働時間の定義と計算ルールを明確にする
・勤怠記録をリアルタイムで把握できる体制を整える
・所定労働時間と超過時間を分けて管理する
・定期的に管理者が状況をチェック・是正する
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1) 労働時間の定義と計算ルールを明確にする
残業時間の正確な管理には、労働時間の定義と計算ルールを明確にすることが重要です。
あいまいな基準のまま運用していると、管理者と従業員の間で認識のズレが生じ、トラブルのもとになります。
「着替えの時間は労働時間に含まれるのか」「休憩はいつからいつまでか」など、細かなルールが明文化されていない職場では混乱が起きやすくなります。
全社共通のルールを文書で定め、誰もが確認できるようにすることが基本です。
(2) 勤怠記録をリアルタイムで把握できる体制を整える
残業時間を管理するには、勤怠データをリアルタイムで確認できる環境が欠かせません。
手作業による記録や、月末にまとめて確認する運用では、対応が後手に回ってしまいます。
たとえば、クラウド型の勤怠管理システムを導入すれば、管理者が日々の打刻状況や残業時間をその都度チェックでき、早期対応が可能になります。
リアルタイムの見える化は、働きすぎの防止にも直結します。
(3) 所定労働時間と超過時間を分けて管理する
勤務時間の集計を行う際は、所定内の労働と超過分（残業）を明確に分けて管理することが必要です。
一括で時間をまとめてしまうと、実態の把握や改善策の検討が困難になります。
所定労働時間内で終わっている部署と、常に残業が発生している部署では、対応の優先度も異なるはずです。
データを区分して見ることで、課題のある箇所が可視化され、的確な改善につながります。
(4) 定期的に管理者が状況をチェック・是正する
残業時間の増加に気づくためには、管理者が定期的に勤怠状況を確認し、必要に応じて是正措置をとる体制が求められます。
このプロセスが機能していないと、長時間労働が慢性化し、重大な労務リスクを見逃すことになります。
毎月の残業時間をチェックし、一定時間を超えた場合は個別に対応するなど、具体的なルールを設けるのが有効です。
4. 勤怠管理システム導入で得られるメリット
残業時間の正確な把握や、法令遵守、人材の適正な配置といった課題に対して、勤怠管理システムは強力な解決策となります。
勤怠管理システムを導入することで得られる主なメリットを4つご紹介します。
・コンプライアンス遵守
・労務担当者の業務効率化
・社員の働き方の見直し
・データに基づくマネジメント
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1) コンプライアンス遵守
勤怠管理システムを導入することで、労働時間の把握精度が高まり、法令違反のリスクを大幅に減らせます。
労働基準法をはじめとする法令では、労働時間・休憩・休日などの正確な記録と管理が求められています。
たとえば、36協定で定めた残業上限を超えて労働させた場合でも、システムのアラート機能があれば未然に気づくことが可能です。
コンプライアンスを守る体制づくりに、勤怠管理システムは大きな役割を果たします。
(2) 労務担当者の業務効率化
勤怠データの集計やチェックを手作業で行うのは、多くの時間と労力を必要とします。
勤怠管理システムを活用すれば、打刻記録の自動集計やアラート機能により、担当者の作業を大幅に軽減できます。
システム上で未打刻や残業超過の社員を自動で抽出できるため、担当者は異常値のチェックに集中できるように。
結果として、月末処理の負担が減り、他の業務にも余力が生まれるでしょう。
(3) 社員の働き方の見直し
勤怠データが可視化されることで、社員一人ひとりの働き方に対する気づきが得られます。
どの時間帯に残業が集中しているか、誰が慢性的に長時間労働しているかといった実態を把握できるため、組織全体での改善が進めやすくなります。
たとえば、ある部署で月平均残業が突出していた場合、その業務量や人員配置の見直しを検討することも可能です。
システム導入は、働き方改革の第一歩にもなり得ます。
(4) データに基づくマネジメント
勤怠管理システムから得られるデータは、人事評価や人材配置、業務改善の判断材料として活用できます。
感覚や慣例に頼らず、事実に基づいたマネジメントが実現できる点は大きな強みです。
部署ごとの残業時間を比較すれば、効率的な部署と改善が必要な部署が一目でわかります。
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