テレワークの普及で、働く場所の自由度は大きく高まりました。
一方で「部下の働きぶりが見えない」「気づいたら残業時間が増えていた」と悩む労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
テレワークは、オフィス勤務に比べて労働時間の実態を把握しにくい働き方です。
長時間労働や申告漏れの残業が起こりやすく、放置すれば未払い残業代や健康障害といったリスクにもつながります。
本記事では、テレワークで残業が増える理由と、管理者が押さえるべき5つの対策について解説します。
1. テレワークにおける残業管理の基本
残業管理でまず押さえておきたいのが、企業に課された労働時間の客観的な把握義務です。
時間外労働の上限規制や割増賃金のルールも、テレワークでは通常勤務と同様に適用されます。
テレワークで検討されることの多い事業場外みなし労働時間制についても、適用できる条件は限定的です。
(1) 労働時間の客観的な把握義務
在宅で働く従業員であっても、勤務時間の管理を本人任せにすることはできません。
2019年4月施行の改正労働安全衛生法により、管理監督者を含む労働者の労働時間の状況把握が企業に義務付けられたためです。
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」でも、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録による把握が原則とされています。
自己申告で把握する場合は、申告と実態に乖離がないかの確認が必要です。
著しい乖離があれば、記録の補正も求められます。
テレワークでも、オフィス勤務と同水準の時間管理が前提です。
(2) 時間外労働の上限規制と割増賃金
自宅で働いた時間も、労働基準法上の労働時間であることに変わりはありません。
36協定の上限や割増賃金のルールはテレワークでもそのまま適用されます。
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。
特別条項を設けた場合でも、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働含む)、2〜6か月平均80時間以内(休日労働含む)を守る必要があります。
割増率は、月60時間を超える時間外労働で50%以上、22時から翌5時までの深夜労働で25%以上。
テレワーク中の残業も、オフィスでの残業と同じく集計対象に含めて管理することが不可欠です。
(3) 事業場外みなし労働時間制の適用条件
テレワークであれば一律にみなし労働時間で処理できる、というわけではありません。
この制度が認められるのは、「労働時間を算定し難いとき」に限られます。
ガイドラインが示す適用要件は、「情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態に置かれていないこと」と「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」の2つ。
チャットツールで常に連絡が取れる状態や、上司から細かな指示を受けている働き方では、要件を満たさない可能性が高いと考えられます。
安易にみなし労働時間制を適用せず、実労働時間の把握を基本とすることが大切です。
2. テレワークで残業が増える理由
通勤時間がなくなる分、テレワークでは残業も減ると考えられがちです。
しかし実際には、オフィス勤務より労働時間が長くなるケースが少なくありません。
背景にあるのは、仕事とプライベートの境界があいまいになることや、業務量・進捗が見えにくくなること。
チャットやオンライン会議によるコミュニケーション負担の増加、勤怠記録に表れない「隠れ残業」も見逃せない原因です。
(1) 仕事とプライベートの境界のあいまいさ
オフィス勤務では、退勤や帰宅の移動が自然な区切りです。
自宅が職場になると、業務を区切りにくく、パソコンを閉じるまで仕事モードが続いてしまいます。
「夕食後に少しだけメールを確認する」「寝る前に翌日の資料を準備する」といった行動が積み重なり、気づけば深夜まで作業していたという声も珍しくありません。
こうした細切れの業務は本人も残業と認識しにくく、労働時間が膨らむ原因になります。
オンとオフの切り替えの難しさは、テレワーク特有の長時間労働リスクです。
(2) 業務量や進捗の見えにくさ
管理者が部下の仕事の状況を把握しづらいことも、残業増加の大きな要因です。
同じ空間で働いていれば、忙しそうな様子や手が止まっている状況に自然と気づけます。
テレワークでは、そうした変化が見えません。
その結果、特定の従業員に業務が偏っていても調整が遅れ、本人が抱え込んだまま長時間労働に陥るケースがあります。
成果を示そうと、必要以上に働いてしまう従業員がいる点も見落とせません。
見えないことが、負荷の偏りと過重労働を生む土壌になっています。
(3) コミュニケーションにかかる時間の増加
テレワークでは、意思疎通の手間がかえって増える傾向にあります。
対面なら数秒で済む確認も、チャットでは返信を待たなければなりません。
オンライン会議が増えれば日中の作業時間が削られ、本来の業務を終業後にこなす状況も生まれます。
終業後に届くチャット通知への対応も、時間外労働の一因。
やり取りの非効率さが、所定労働時間内に業務が収まらない原因になっています。
(4) 申告されない「隠れ残業」の発生
勤怠記録に表れない残業が生まれやすいのも、テレワークの特徴です。
背景には、残業申請を面倒に感じる心理や、上司に能力不足と思われたくない意識があります。
「終業打刻の後にパソコンを再び立ち上げて作業を続ける」といった行為は、管理者からは把握できません。
しかし、使用者が黙認していた場合は労働時間と認められる可能性があります。
後になって、未払い残業代として問題化するおそれもあるでしょう。
記録上の残業が少なくても、実態まで少ないとは限らない点に注意が必要です。
3. テレワークの残業を放置するリスク
テレワーク中の残業を管理しないまま放置すると、企業はさまざまなリスクを抱えることになります。
代表的なのが、把握できていない労働時間に対する未払い残業代の請求です。
長時間労働が続けば従業員の心身の健康が損なわれ、安全配慮義務違反を問われる可能性も。
疲弊した職場では、生産性や従業員エンゲージメントの低下も避けられません。
(1) 未払い残業代の請求
最も直接的なリスクは、金銭的な負担です。
テレワーク中の隠れ残業でも、使用者の指揮命令下にあったと認められれば労働時間に該当します。
退職した従業員が、パソコンのログやメールの送信履歴を証拠に請求してくるケースも考えられます。
2020年4月の労働基準法改正で、賃金請求権の消滅時効は当面3年に延長されました。
遡って請求される金額も、以前より大きくなりがちです。
裁判になれば、未払い額に加えて付加金の支払いを命じられることもあります。
記録の不備は、そのまま経営上の負担に直結します。
(2) 健康障害と安全配慮義務違反
長時間労働が常態化すると、従業員の心身に不調が生じるおそれがあります。
テレワークでは、周囲の目が届きません。
そのため、疲労の蓄積やメンタル不調のサインに気づくのが遅れがちです。
企業には、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。
在宅勤務であっても、この責任は免れません。
また、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合は、医師による面接指導の実施が必要です。
健康確保の観点からも、テレワーク中の労働時間把握は欠かせません。
(3) 生産性と従業員エンゲージメントの低下
残業の放置は、組織全体のパフォーマンスにも影響します。
長時間労働で疲弊すると、集中力や判断力が落ちて業務効率がかえって悪化します。
一部の従業員だけに負荷が偏る状況が続けば、職場に不公平感が広がりかねません。
その先に起こり得るのが、優秀な人材の離職と採用・育成コストの増大。
テレワークの利点を生かすには、残業管理を組織運営の土台として捉える必要があります。
4. テレワークの残業を防ぐ対策5選
ここからは、管理者が押さえるべき対策を、ルール・制度面と運用・マネジメント面に分けて紹介します。
ここからは、管理者が押さえるべき5つの対策を紹介します。
土台となるのは、PCログなども活用した客観的な労働時間の記録。
そのうえで、残業の事前申請・承認制や中抜け時間のルールを整えます。
運用面では、時間外の連絡を制限する取り組みや、長時間労働者を早期にフォローする体制も欠かせません。
以下、1つずつ見ていきましょう。
(1) 【対策1】客観的な労働時間の記録
最初に取り組みたいのは、勤務の実態を正確に残す仕組みづくりです。
自己申告だけに頼る方法では、隠れ残業や申告漏れを防げません。
クラウド型の勤怠管理システムなら、自宅のパソコンやスマートフォンから打刻でき、記録も即時に集計されます。
さらに有効なのが、PCの起動・シャットダウンのログと打刻時刻の照合。
「打刻とPCログの差が30分以上ある日は理由を確認する」といった基準を設けておけば、乖離にも素早く対応できます。
正確な記録は、あらゆる残業対策の出発点です。
(2) 【対策2】残業の事前申請・承認制
残業を行う前に、上司の判断を挟むルールも効果的です。
管理者が必要性を判断する機会を設けることで、なし崩し的な長時間労働を抑えられます。
運用例としては、「残業が必要な場合は17時までに業務内容と予定時間を申請し、上司の承認を得てから実施する」といったルールを就業規則やテレワーク規程に定める方法があります。
ただし、承認がないことを理由に実際の残業を労働時間と認めない運用は危険です。
黙示の指示があったと判断されるおそれがあります。
申請制はあくまで管理の手段であり、実態を正しく記録することが前提です。
(3) 【対策3】中抜け時間の取り扱いルール
家事や育児、通院などで業務を一時中断する時間についても、扱いを明確にしておくべきです。
ここがあいまいだと終業時刻が後ろ倒しになり、労働時間の集計が不正確になります。
ガイドラインが示す方法は、休憩時間として扱い終業時刻を繰り下げる方法と、時間単位の年次有給休暇として扱う方法の2つ。
どちらを採用する場合も、就業規則への記載が必要です。
あわせて、「中抜けの開始時と終了時にチャットで上司に報告する」といった報告手順も決めておきましょう。
ルールが明確になれば、労働時間の集計精度も高まります。
(4) 【対策4】時間外のメール送信・システムアクセスの制限
業務時間外に連絡が届く環境は、残業の温床になりやすいものです。
届いたメッセージを目にすれば、つい対応してしまう従業員も少なくありません。
ガイドラインでも、長時間労働を防ぐ手法として、役職者等による時間外のメール送付の自粛や、深夜・休日の社内システムへのアクセス制限が挙げられています。
「メールは送信予約機能を使い、翌営業日に届くよう設定する」というルールだけでも、受け手の負担は大きく変わります。
管理者自身が率先して取り組むことが、組織全体への浸透につながります。
(5) 【対策5】長時間労働者の早期把握とフォロー
過重労働を防ぐには、問題が深刻化する前に手を打つ体制が欠かせません。
テレワークでは、疲労や業務過多のサインが見えにくいためです。
有効なのは、勤怠データをもとにしたアラートの仕組み。
「月の時間外労働が30時間を超えた時点で本人と上司に通知する」といった基準を設けておけば、早期の対応が可能になります。
通知を受けたら1on1面談などで業務量や進め方を確認し、必要に応じて業務を再配分しましょう。
データに基づく早期フォローが、過重労働の未然防止につながります。
5. テレワークの残業管理を定着させるポイント
対策を講じても、社内に定着しなければ効果は一時的なものにとどまります。
継続的に機能させるために重要なのが、就業規則やテレワーク規程へのルールの明文化です。
そのうえで、従業員にルールの目的を丁寧に伝え、理解と納得を得る取り組みが欠かせません。
勤怠データを定期的に分析し、運用を見直していく姿勢も求められます。
以下、残業管理を定着させるポイントを3つにまとめました。
(1) 就業規則・テレワーク規程の整備
残業管理のルールは、社内規程として明文化しておく必要があります。
根拠となる規程がなければ、従業員にルールの遵守を求めることは困難です。
定めておきたい項目は、労働時間の記録方法、残業の申請・承認手続き、中抜け時間の扱い、時間外の連絡に関する方針など。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更した場合は、労働基準監督署への届出も必要です。
明確な規程こそが、公平で一貫した運用を支える基盤となります。
(2) 従業員への周知と理解促進
ルールを定めたら、その目的とあわせて社内に丁寧に伝えることが大切です。
管理強化の意図だけが伝わると、監視されているという不信感を招きます。
その不信感が、かえって隠れ残業を誘発しかねません。
社内には、「残業管理は従業員の健康と公正な評価を守るための取り組み」というメッセージを明確に打ち出しましょう。
管理職向けには、部下の労働時間に関する法的責任や、残業承認の判断基準についての研修も効果的です。
従業員と管理職の双方が納得して取り組める環境づくりが、定着の鍵になります。
(3) 勤怠データの定期的な分析と改善
ルールを運用し始めた後も、定期的な見直しは欠かせません。
導入時のルールが、時間の経過とともに実態に合わなくなることも少なくないでしょう。
月次で確認したいのは、「部署別・個人別の残業時間の推移」「申請時間と実績の差」「打刻とPCログの乖離」といった指標です。
課題のある部署や業務が見えてきたら、業務プロセスの見直しや人員配置の調整につなげます。
データに基づく継続的な改善が、テレワークの残業管理を形骸化させないポイントです。
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